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コロナ禍
シンガポール
遠征紀行

​2022年7月30日〜8月3日

 まだコロナ禍にある世の中。思い切って海外遠征に行ってきた。厳格な規制から緩和が始まった移行期であるからこそ直面した諸々を、情報として残しておきたいと思う。

 ◉海外遠征の封印

 2020年3月に新型コロ​ウィルス感染症COVID-19はパンデミックを起こした。実は直前の2月頭にはバンクーバーに長期出張しており、不穏なニュースを聞きつつもちょうど帰国のタイミングでもあったため普通に日本へ戻ってこれた。バンクーバーでも1人2人と感染者が出始めており、本当にタイミングはギリギリだったと言える。これ以降は認識のとおり完全に海外移動を封じられ、2020年・2021年・2022年と年を跨いで我慢を強いられた。と書いているが、実際のところ世界的な鎖国かというとそういうわけでもない。出国時の陰性証明書と入国後の1〜2週間の隔離期間があれば一部の国へは渡航できた。もちろん日本帰国も隔離期間がある。つまり、1週間の休みをとっても渡航に必要な日数には遠く届かない。プライベートで行くのはほぼ不可能と言える状況だ。

 2022年の春頃、各国(特に東南アジア)にて入国規制が緩和され始めた。ワクチン接種証明書さえあれば入国後の隔離期間もなくなり、余計な日数を喰わなくて済むようになったのだ。しかし、直ぐに動けなかったのには理由がある。渡航先国の規制が緩和されても、日本側の入国規制が依然として厳しかったためだ。多少緩和はされて、帰国時に入国前検査・入国時検査・入国3日目検査の全てで陰性であれば待機期間が3日間に短縮された。いや、それでもまだまだハードル高いよという話。それがなんと、夏頃にさらに緩和された。ワクチン3回接種証明書と入国72時間以内に検査を実施した陰性証明書(指定の必要情報が記載されている様式)、入国前にSOSアプリでの必要情報の申請、これらを用意できれば感染が流行していない地域からであれば待機期間がなくなるという内容。ここまでくれば、まだまだリスクは高いが何とかなる。2022年5月頃から海外遠征を考え始めた。

​🇸🇬

チャンギ国際空港
朝食

 ◉遠征先の選定

 遠征先の選定における条件は以下のとおりだ。

  1. 何かあった際に相談できる先が絶対に必要と考え、大手旅行代理店のパッケージ商品から選ぶこと

  2. 行ったことのない国であること

  3. PCR検査を遠征期間の真ん中に受けるため、フィールドと都市が近いこと

  4. 他にも日本人が多数来ていそうなこと

  5. まだ見ぬオカヤドカリ属が生息していること

  6. 公共交通機関が発達していること

結論として選んだのは 🇸🇬シンガポール だ

 ◉事前準備

 海外遠征に行こうと決めてから、事前にすべきことは複数あった。まずはコロナワクチンの接種だ。私は2回まで受けていたため、直ぐに3回目を受けることにした。そして役所にワクチン接種証明書の発行を依頼(シンガポール・日本ともに入国時必要)。シンガポール旅行パッケージの予約。レンタルWi-Fiの予約。現地でのコロナ入院も保障範囲であるちょっとお高めの海外旅行保険の申し込み。そして日本帰国72時間以内にPCR検査を行い、シンガポール出国前に指定様式の証明書を受領できる病院の予約だ。これは旅行代理店が推奨している代理予約サービスがあったが、2万円近くした。流石にこれはぼったくっているだろうと調べてみた結果、予約なしにはなるが7千円程度で要件を満たした検査ができるクリニックを見つけることができた。不安点は、予約がないので臨時休業もあり得ること、ちゃんと要件を満たした証明書を出国までに受領できるように英語で受付できるかの2点だ。これを普通にミスしたら帰国できなくなるヤバさがある。もちろん陽性が出たら国にも把握されてもっとヤバいが。今思っても本当にハイリスクの賭けだ。一応第三候補まで調べておきつつ、要望事項を英語文に起こしておいた。抜かりなく。そして、感染者が急増したらこの緩和措置が変更となる可能性もある。常に日本とシンガポールの状況は確認していた。そしたらどうだ、サル痘が感染拡大してシンガポールでも感染者が報告された。嫌な予感がしつつも、注意報までにとどまったため渡航に影響は出なかった。最後にシンガポール入国3日前に入国アプリICAで事前申請をして成田空港へ向かった。久しぶりの海外だ。実に2年半ぶり。我慢しまくった分、ワクワクが止まらなかった。

 ◉目的

 なお、このシンガポール遠征の目的は、

ウスムラサキオカヤドカリ Coenobita lila の発見

・海外の雰囲気を思いっきり感じられる観光

の2点だ。ついでに爬虫類も色々見れたらいいな。期間はパッケージで用意されていた最大日数の5日間。といっても深夜に着いて、朝に出るのでほぼ中3日間しかない。

セントーサ
貨物船
水族館大水槽
水族館パルダリウム
ユニバーサルスタジオシンガポール
セブン
ウスムラサキオカヤドカリ
裏路地
ウォーターパーク
寺院
中華
Leptobrachium nigrops
ギガスオオアリ
マーライオン
人工蓮池

 ◉1日目

 シンガポール チャンギ国際空港に到着。もう日付が換わるような深夜だ。有名な人工滝は動いていなかった。観たかっただけに残念。ホテルにチェックインしたのは2時をまわっていた。翌日というか今日に備えて就寝。

 ◉2日目

 ホテルの朝食バイキングを食べて、駅へ向かう。​電車は交通系ICカード「ez-link Card」によって便利に乗り降りできる。電車に乗って向かう先はセントーサ島だ。何というか、お台場へ行くような感覚で着いた先は南の島なビーチ。とても羨ましいなこれは。とはいえ、水は綺麗とは言えない感じで、沖には貨物船がひしめいている。いわゆる日本人が思い浮かべる沖縄のような南の海とは少々乖離があった。しかし生物相は熱帯だ。羨ましいことに変わりない。

​ 白い砂浜を散策し、南国を楽しむ。風景は完全に海外のビーチだ。これこれこういうのを楽しみにしていたんだ。また戻ってくるから少しして街の方へ移動した。ハンバーガーを食べて、水族館へ向かう。結構楽しめる内容だった。大水槽や淡水水槽、パルダリウムなども充実していた。まだ明るいうちにビーチへ戻り、ゆっくりとした時間を過ごす。

 暗くなった頃からが本番だ。一番の目的に取り掛かる。ウスムラサキオカヤドカリ探しの始まりだ。しかし、なかなか見つからず苦労した。人がいるところでは見つからなかったし、当初目をつけていたポイントは夜間立ち入り禁止となっていた。参った。とは言えそこはハイアマチュアの意地。駆けずり回ってなんとか見つけ出せた。本当に美しい紫色だ。正直一番好きかもしれない。そんなわけで、今回の旅の一番の目的は達成することができた。素晴らしい。久しぶりの海外でこれは気持ちがいい。

 ◉3日目

 また朝はホテルのバイキングを食べてから、バス停に向かう。少し裏路地を歩いたところ、東南アジアのアングラな雰囲気を少し味わえた。とても懐かしい。道脇を三面護岸の汚い水路が流れ、生ごみの臭いが鼻を穿つ。とまぁそういう話は置いておいて、バス停に到着。バスもez-link Cardで乗ることができる。向かう先はPCR検査をするためのクリニックだ。少し街をブラついていると、立派な寺院が見えたので覗いてみることにした。履き物厳禁。裸足で敷地を歩く(普通に石畳)。異国の宗教に触れることは貴重な経験だ。

​ お土産屋なども眺めつつ、クリニックへ向かう。面倒臭いことこのうえない。検査結果の受領には24時間ほどかかる可能性があるとのことだったので、帰国72時間以内の検査かつ帰国便搭乗前に検査結果を受け取れるとなると、今日しかないのだ。本当にこんなところにあるのかという様な建物に入り、爆速なエスカレーターを上がっていくとクリニックがあった。普通に営業していたし、飛び込みでの受診も特に待つことなくOKだった。ふんふんと英語で受付諸々進めて、証明書はメールで送ってもらえる形で検査実施。陰性でありますように。検査を終えて駅へ向かう。

 今日のメインイベントはアミューズメント施設だ。ウォーターパークで思う存分泳ぐ。途中天気が崩れてしまったため、ウォータースライダーの待機列はちょっと寒かった。全部滑ったが、一番勢いのつくやつは日本では絶対に実装できないスピードで正直ヤバかった。水面に突っ込んだ際はちょっと角度が悪く、鼻に水の弾丸を打ち込まれた様な感覚になり、鼻腔どころか脳天までダメージを負った。それもまた良し。波のプールで揺られていたら治った。夕方になり、閉場の時間。ちょうどPCRの検査結果が送られてきていた。めちゃくちゃ早い。まぁ、検査自体もほとんど待たなかったから順番待ちがなかったのだろう。普通にドキドキする。例えるなら合格発表を見るような感覚だ。これで陽性だったら帰国できなくなり、諸々が炎上する。…「Negative」。良かった。これでスケジュール通りに動ける。ホテルに戻りながら、ワクチン接種証明書やこの陰性証明書などを日本の入国アプリSOSへアップロードして必要情報を入力して申請をした。要件クリアのブルー証明を取得し、一旦は安心。普通にこれまでの遠征の中で最大級のリスクだったと思う。

 暗くなってからバスに乗り、ジャングルへ向かう。シンガポールは都市とジャングルが隣接しているため、公共交通機関で簡単にナイトハーピングへ向かうことができる。便利極まりない。高尾山に行くよりも身近だ。とはいえもちろん帰りの時間には注意が必要。最終バスを逃せば悲しいことになる。程よく2〜3時間でのジャングル散策といこう。

 ジャングル内は整備されており、道がしっかりとある。そもそもジョギングしている人とすれ違うような具合。何かしら爬虫類が見れたらいいやという気持ちで適当に歩いていたが、何ともまぁ乾燥している。昼間に少し天気崩れたが、こっちのエリアは降っていないのだろうか。爬虫類が一切出ずに歩き切ってしまった。参ったな。東南アジアに来て蛇の1匹も見れないのはしたくない。あと一晩しかないからちょっと考えなくては。

ショッピングモール
フライドチキンナシゴレン
マリーナベイ・サンズ
ガーデンズ・バイ・ザ・ベイ
クラウド・フォレスト
コモンブロンズヘビ
クラウド・フォレスト
オオアオムチヘビ

 ◉4日目

 翌日は朝の便で帰るため、今日がほぼ最終日。まずはまだ見れていなかったマーライオンを見に行く。世界三大がっかりとも言われているが、そういう気持ちで見に行ったら思ったよりは立派だったし、結構人もいた。次にショッピングモールへ向かう。豪華なモールで結構良かった。しかし、ショッピングモールにいる頃から急に天気が崩れ始めて大雨。少々肌寒いくらい。マリーナベイ・サンズへの移動には外に出るし、外から眺めたかったから困った。傘をさしつつ、マリーナベイ・サンズへ向かう。正に空中船という感じで凄い。いつかは泊まってみたいと思う。次に向かうはガーデンズ・バイ・ザ・ベイ。ここには有名な植物園がある。入ってみて本当に驚いた。巨大なドームの中には熱帯植物が覆う巨塔があり、滝が流れている。なんだこの規模は。あまりにも​規格外すぎる。天空回廊もあるし、植物も多種多様でみていて飽きない。植物好きはここに行くためだけにシンガポールへ来てもいいと思う。それくらい驚いた。一通り楽しみ、その他観光もしているうちに暗くなってきた。また爬虫類探しの始まりだ。

 今日は昨日とは別のポイントへ行くことにした。環境としては、いわゆるマングローブ林だ。雨が降ったからアレだが、それ抜きにしても水分の多い環境へ行こうと思っての考えだ。電車に揺られ、ポイントへ向かう。何度も言うが、本当に便利だ。散策を始めて直ぐにヘビが現れた。コモンブロンズヘビと呼ばれるブロンズバックのド普通種だ。とは言え初見種。悪くない。幸先よく始まったと言える。樹上を見ながら歩いていると、オオアオムチヘビも何匹か見ることができた。完全に東南アジア低地のど定番といったメンツ。水の方にも目を向けていると、私の好きなヘビが姿を現してくれた。シュナイダーウミワタリだ。汽水域に生息するミズヘビで、ドッグフェイスとも呼ばれる可愛い顔をしている。これも汽水域、特に​マングローブ林の定番。見れたヘビは以上であり、だいぶ物足りなさはあるが蚊もいるし疲れたしもう一周はしたくないとのことで夜のマーライオンを見に戻ることにした。酒を飲みつつ、マーライオンと夜景を眺めて最終晩は終了。

シュナイダーウミワタリ
マーライオン
証明書

 ◉5日目

 帰国する。飛行機のチェックイン時にも、3日目に申請したSOSアプリのブルー証明の提示を求められた。飛行機に乗り、成田へ戻る。入国検査の際にアプリのブルー証明を提示したら青い紙を渡された。これを入国審査官に提示できないとPCR検査と待機が待っている。恐ろしい。
 無事全て突破し、シンガポール旅行遠征は終了。休みの日数に対して期間が短かったので、翌日は予約を取れていたディズニーランドへ向かう(この時はまだ厳正な予約必須期間)。スケジュール通りに何とかなって本当に良かった。
 ちなみに、2022年晩秋頃には日本入国時の72時間以内陰性証明書の提出が不要となり、ようやく他の生き物屋も海外遠征に行くようになった。証明書が必要な時期に行っていた人はまず見なかったので、私のこの記録もレガシーとして残しておいた方が面白いかなと思って書いてみた。自分で言うのも何だが、なかなかこんな感じで初動で活動できる人は少ないと周りを見ていても思う。

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