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ヤシガニ  Coconut Crab

ヤシガニ
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 ヤシガニ Birgus latro はオカヤドカリ科ヤシガニ属に分類される1属1種の甲殻類。その特徴的な体躯と、世界最大の陸生甲殻類という迫力は生き物好きの興味を惹いてやまない。

ヤシガニとは

ヤシガニはカニではなくヤドカリの仲間

ヤシガニ

ヤシガニ

Birgus latro

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ヒライソガニ

ヒライソガニ

Gaetice depressus

ムラサキオカヤドカリ

Coenobita purpureus

 ヤシガニは椰子"蟹"とあるが、カニの仲間ではなく、ヤドカリの仲間である。こう書くと、そもそもヤドカリはカニなのかエビなのかとよく訊かれるが、狭義的にはヤドカリはカニでもエビでもなくヤドカリなのである。エビは横に置いておいて、ヤシガニがカニではなくヤドカリの仲間であることは比較してみるとわかりやすい。

 ヤシガニは、細長い2対の触角を持つこと、甲羅が明瞭に分かれており(前甲と後甲)縦長であること、目立つ歩脚が4本であることが見てとれる。これらはヤドカリの特徴に合致する。しかし1番大きな要素である、貝殻を背負っていない。これは、ヤシガニはヤドカリでありながら貝殻を必要としない強さを成長で手に入れることと、その世界最大のサイズに見合う貝殻を拾得することが難しいため、貝殻を必要としない生態になったと考えられている。

抱卵したヤシガニ
ヤシガニ幼体

ヤシガニの幼体は貝殻を背負う

 ヤシガニは陸で生活をしているが、卵から孵化してしばらくは海でプランクトン生活を送る。変態して成長すると、貝殻を背負ってヤドカリとして上陸する。500円玉程度のサイズになるまでは、宿貝を交換しながらヤドカリとして暮らす。

 この貝殻を背負ったヤシガニは人間の入りにくい環境に生息しているため非常に珍しく、目撃事例は極めて少ない。「ヤシガニは小さい時に貝殻を背負う」という情報が一人歩きして、オカヤドカリ類をヤシガニの子供だと誤認する話が後を絶たない。オカヤドカリ属はヤシガニと極めて近縁な陸棲生活をおくるヤドカリで、握り拳くらいのサイズまで成長する種もいる。似てはいるのだ。しかし、ヤシガニの幼体は研究者が必死に探してもなかなか見つからないような代物であるため、残念ながら観光ついでに砂浜を歩いて見つかるようなものではない。

⇩ヤシガニのような迫力のサイズであるオオナキオカヤドカリ

オオナキオカヤドカリ

⇩そこまで大きくないヤシガニ

ヤシガニ

ヤシガニの生息環境

 そんな非常に興味深いヤシガニは、インド洋から太平洋にかけての意外と広い分布域を持つ。

​〈アフリカ東海岸(マダガスカルのあたり)〜モルディブ〜インドネシア〜フィリピン〜日本(南西諸島)〜ミクロネシア〜メラネシア〜ポリネシア〜ピトケアン諸島〉

​ ヤシガニが多く生息できるような海岸環境は言うまでもなく、海浜植物が群生し、岩石が多量に見られ、濃密な海岸林が群生している様なあまり人の手の入っていない場所だ。

ヤシガニの保護

 オカヤドカリ属は国の天然記念物に指定されているため採捕等が禁止されているが、ヤシガニはそうではない。しかし、行政区によっては保護対象となっているため要注意である。大きく以下の4パターンに分かれるが、複合的に指定されている場合もある。

①行政区によって保護種となっている場合

②禁漁期が設けられている場合(サイズや雌雄の制限も設けられていることが多い)

③ヤシガニ保護区が設けられている場合(現地の看板に書かれていたりするため、情報として得にくいことがある)

④国立公園などの保護(自然公園法・森林法)に全体として含まれている場合

 ヤシガニは珍味として食材利用されているが、成長が非常に遅く性成熟にも10年近くかかるとも言われており捕獲圧は個体群に大きな影響を与える。単純に捕獲によって個体数が減るだけではなく、ヤシガニのメスはサイズの大きなオスでないと相手に選ばないため交接の成功率が下がる。加えて、メスも体サイズが小さいと抱卵数が減るため再生産が伸び悩むこととなる。特別美味しいわけでもないので、興味本位での消費は控えてほしいというのが一愛好家としての願いだ。ナイトツアーでの観察に限った楽しみ方としてほしい。

▼ 出版情報 ▲

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オカヤドカリ
Land Hermit Crab in Pacific Rim

​2024年10月27日 通販開始

 オカヤドカリ科は太平洋・インド洋・大西洋に分布し、日本の位置する太平洋には全18種のうち15種が分布している。本書では、記載不明瞭1種を除いた14種について写真と解説を掲載。加えて、生活史や生態、環境、文化についても300点以上の豊富な写真とともに色濃く解説した、ヤシガニを含めたオカヤドカリ類の情報が究極に詰め込まれた1冊。

ISBN978-4-600-01494-0

​A5サイズ・フルカラー・82ページ

目次

 〈本書の科学的取り扱い〉

・オカヤドカリ科の2024年時点における包括的な知見集約

・太平洋に分布するオカヤドカリ科14種の横並び紹介

・新称の提唱

  ▶︎ Coenobita longitarsis アシナガオカヤドカリ(新称)

  ▶︎ Coenobita lila ウスムラサキオカヤドカリ(新称)

  ▶︎ Coenobita compressus ハクボオカヤドカリ(新称)

  ▶︎ Coenobita carnescens フシグロオカヤドカリ(新称)

  ▶︎ Coenobita variabilis レンガオカヤドカリ(新称)

・ヤシガニの額角形成の過程を撮影

・オカヤドカリ C. cavipes の種の北限更新(トカラ列島 宝島)

・大東諸島 南大東島におけるオカヤドカリ、ナキオカヤドカリ、ムラサキオカヤドカリ、ヤシガニの観察記録

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